キャプティブ保険の歴史は、イノベーションの歴史。 その3 1990年代後半まで

こんにちは、ハワイ州キャプティブ保険マネジャーの三澤です。

 

前回の投稿では、1970年から1980年代前半までに様々な種類のキャプティブが登場し、保険会社が引き受けられない特殊リスクを引受ける重要な役割を担ってきた歴史を振り返りました。今回は1980年代後半から1990年代後半までの歴史を振り返ってみようと思います。

 

この時代はキャプティブが一般の大手企業に浸透し、キャプティブ設立が加速していきます。またレーガン政権による税制改革によって、中小企業による小規模キャプティブの設立も始まります。2000年までには、キャプティブの総数が4000社を超えました。

 

ACEとXLの設立

現在のChubb損害保険の前身であるACEと後にAXAと合併しAXA XLとなるXLは、それぞれ1985年と1986年にグループキャプティブとしてスタートしました。当時、保険会社の賠償責任保険に対する保険引受余力が不足していたことを受け、大手保険ブローカーが保険を購入できない企業を取りまとめてグループキャプティブとして組成したものです。ACEとXLはその後、第三者リスクの引受けや、保険会社の吸収合併、株式の上場など、保険会社として大きな成長を遂げます。

 

 

EIMの設立

1986年、電力会社17社の合弁でEnergy Insurance Mutual Limited(EIM)がバルバトスに設立されました。賠償責任保険の保険引受余力の不足により、原子力事業に関する免責なしに会社役員賠償責任保険を購入することが不可能な状況であったことが原因です。現在EIMは、電力会社やその他のエネルギー産業企業など165社に対し賠償責任保険、会社役員賠償責任保険、火災保険などを提供しています。

 

 

銀行グループキャプティブの設立

1980年代、賠償責任保険の引受余力の不足は金融業界でも深刻な問題になっていました。AIGなどの大手保険会社が、会社役員賠償責任保険に重大な免責事項を追加するようになりました。1986年に大手銀行50-60社がバミューダにグループキャプティブBankers Insurance Company, Ltd.(BICL)を設立し、銀行業の保険引受の多くを提供するようになりました。その後しばらくして大手保険会社が、再度銀行業界の保険引受を拡大するするようになりますが、大手保険会社がBICLが使用していた銀行業界用の保険申込書類を参考にしたそうです。

 

 

レーガン政権による税制改革

アメリカでは、キャプティブを国内に呼び戻す努力が続いていました。1986年、レーガン大統領が30年ぶりとなる大幅な税制改革を行います。その結果、米国企業がバミューダなどのオフショア地域にキャプティブを設立する税務メリットは事実上消滅しました。この税制改革後、ほとんどの大手企業キャプティブは米国での課税を受けることを選択するようになりました。1986年の税制改革は、年間引受保険料120万ドル以下の小規模キャプティブに対する税務メリットを大幅に改善しました。アメリカ中西部の小規模農業共済キャプティブが、保険会社との競争力を得るために導入された税制です。この税制改革を機に、アメリカ国内に小規模キャプティブが増加することになります。

 

 

ハワイ州によるキャプティブ法の整備

いよいよ我らがハワイ州の登場です。ハワイ州のキャプティブ法や規制当局は、1987年にバーモント州をモデルに整備されました。Char Hamilton Yoshida & Shimomotoのジェリー吉田弁護士(現Goodsill Anderson Quinn & Stifel)が、法案作成の補佐やハワイ州初のキャプティブの申請手続きを担当しました。

 

 

ノースリッジ地震の発生

1994年、ロサンゼルス近郊のノースリッジでマグニチュード6.7の地震が発生し、アメリカ史上最も経済的損害の大きな地震となりました。その結果、保険引受余力が大幅に減少し、キャプティブの設立が加速することになりました。

 

 

プロテクテット・セル・キャプティブの登場

1997年にガーンジーで初めてプロテクテット・セル・キャプティブの法整備が行われました。一つの会社組織の中に複数のセルが存在する従来のレンタキャプティブと違い、契約や法律などにより責任範囲が限られる新しいセルキャプティブの枠組みが登場しました。

 

 

バーモント州がキャプティブによる管理非関連者リスクの引受けを法制化

1997年に、バーモント州がキャプティブが管理非関連者リスクの引受けを行うことができるための法律を整えました。管理非関連者とは、本業などで取引のある非関連者を指します。例えば小売業にとっての顧客や不動産業にとってのテナントなどがこれにあたります。これによって、小売業のキャプティブが延長保証を提供したり、不動産業のキャプティブが家財保険を提供したりすることが、アメリカ国内で行えるようになりました。

 

 

この時代は、政府による規制や税制などが整備され、キャプティブがリスク管理の手法として確立した時代だと言えます。

 

次回は、2000年から現在までのキャプティブの歴史を振り返ります。