あなたの会社は備えていますか? 地震リスクとキャプティブの活用 その1

日本企業にとって、地震リスクは避けては通れない課題です。今回は、日本の地震リスクとキャプティブの活用についてお話しします。

 

 

こんにちは、ハワイ州キャプティブ保険マネジャーの三澤です。

 

今回のコラム記事は、日本の地震リスクとキャプティブの活用についてです。

東日本大震災を経験した仙台出身者として、そして日本企業向けのキャプティブ保険サービスを提供する者として、このトピックは以前からぜひ書きたかった内容でした。

長くなるので、2回に分けてお話しします。

 

皆さん、ちょっと想像してみてください。

 

今日は、会社の将来の方向性が決定される重要な経営会議です。会社の経営陣が勢揃いし、表やチャートを使って研究開発の課題や、消費者趣向の変化などについて白熱したディスカッションが行われています。

 

しかし、あなたにはちょっと、というかかなり気になっていることがあります。会議室の後ろにドッカリ座っている、まるまると太ったあの大きなゾウです。

 

まず会議室にゾウがいること自体普通ではありませんが、さらに不思議なことに誰もゾウの話題に触れません。もちろん気になっているのは、あなただけではありません。会議に参加している全員が気になりつつも、何事もなかったかのように会議を進めています。

 

ゾウは今のところ大人しくしていますが、暴れだしたらそれこそ大惨事です。皆そのことに気が付いてはいるものの、あえて話題には出さずに会議は粛々と進んでいきます。

 

英語に、「the elephant in the room(部屋の中のゾウ)」という表現があります。「the elephant in the room」とは、目前に迫った重大な課題であるにも関わらず、誰も取り組もうとしない大問題のことです。日本企業にとっての地震リスクは、まさに「the elephant in the room」だと言えます。

 

皆さんもご存知の通り、日本は地震大国と言われるほど地震の多い国で、大きな地震被害を何度も経験してきた歴史があります。仙台出身である私も、東日本大震災後の被害を実際に見た一人です。私の父は仙台で会計士をしていますが、被災した企業の経理や後処理をたくさん見てきました。壊滅的な被害を受けた後に奇跡の復活を果たした松島の牡蠣や酒造メーカーの一ノ蔵などの例もありますが、実際には震災を機に廃業した企業がたくさんあります。地震保険の有無が、企業の存続を決定したケースも多かったことでしょう。

 

にもかかわらず、地震リスクに本腰で取り組んでおられる企業は、残念ながらまだまだ少ないように思います。

 

なぜでしょうか?

 

日本企業にとって、地震リスクが「the elephant in the room」になってしまう理由は、次のどちらかだと思います。ひとつは、地震をリスクとして正しく認識していないケース。もうひとつは、地震リスクを認識はしているものの、何らかの理由で地震保険を購入できずに諦めてしまっているケースです。

 

これは文部科学省の地震調査研究推進本部2018年に発行した全国地震動予測地図2018年版の、地震動予測地図です。

今後30年間の間に、震度6弱以上の強い揺れに見舞われる確率を色分けしたものです。

赤い色の濃い地域が、大きな地震を経験する可能性が高い地域ですが、東京から東海、近畿、四国の太平洋沿岸部が最も確率が高い地域となっています。この地域は南海トラフ地震という大型地震が予想されている地域ですが、ここには日本の経済を支える製造業が集中しています。

これは30年後に起きるかもしれない地震の話ではありません。これから30年の間に大規模地震が起きる確率の話で、それは明日かもしれません。

もしあなたの工場が確率の高い地域に所在している場合、地震リスクが喫緊の課題であることは間違いありません。また確率が高くない地域でも、地震やその影響がないということではありません。

2016年の熊本地震や、2018年の北海道胆振東部地震はまだ記憶に新しい出来事ですが、どちらも地震発生確率が最も高い地域ではありません。

また、たとえ自社の施設が地震発生確率の低い地域に位置していたとしても、ビジネスは取引相手がいなければ成り立ちません。取引先が地震発生確率の高い地域にある場合、地震の影響でその取引先が営業できない状況になることも考えられます。

 

2011年の東日本大震災の推定被害総額は、約19兆9000億円です。2018年までに東日本大震災関連の倒産件数は、約1800件あったそうです。もちろん事務所や工場の損壊の被害による直接倒産も相当数存在しますが、ほとんどは取引先の被災の影響による間接倒産です。倒産した企業の従業員被害者数は約3万人弱と言われています。

 

来たる南海トラフ巨大地震の予想被害総額は、最大で220兆円と言われています。東日本大震災の10倍以上の被害が予想されているのです。地震調査研究推進本部の予想では、南海トラフでM8~9の地震が発生する確率は、10年以内が30%、20年以内が50%、30年以内が70~80%と見積もられています。

 

日本の地震リスクは、まさに大きな「the elephant in the room」だと言えます。先ずはリスクをリスクとして認識すること、これがリスク管理の第一歩です。

 

次回は、地震保険マーケットとキャプティブの活用についてお話しします。

その2は、こちらからご覧ください。